掤捋擠按と掤勁

太極拳 倒巻肱 掤捋擠按 掤勁
Taijiquan Reverse Reeling Forearm 1

 

太極拳ではよく、相手の攻撃を化勁により無力化するという。

しかし、早いパンチや蹴りに対して、化勁で対処するのは容易ではない。

それを可能にするには、伝統に裏付けされた技術が必要だ。

 

それでは、掤捋擠按の「掤」について説明しよう。

 

太極拳では掤は掤勁として語られる。

掤勁は、身体の中心から外へエネルギーが膨張する、張りをもった力で現れる。

当方のエネルギーが球状に膨張して、相手のエネルギーも球状に膨張する。

やがて二つのエネルギーは、お互いの手を接点にして、つながり合う。

手の張りは繊細で、植物の葉が成長していくような張りである。

 

掤勁とは、触れた接点でもって、相手と一瞬にして同化する作用である。

これが、本来の掤勁の意味と解釈している。

 

掤勁は、力の変化を与えるのではなく、吸い付いて接触するイメージだろうか。

この「掤」ができないと、次の「捋」もできない。

掤で同化して、初めて、捋で相手の力の方向を変化させるこができる。

 

理論的には掤と捋を合わせて化勁となる。

化勁をかけられると、衝撃がないまま、力をずらされてしまう。

 

しかし、この章で語りたいのは、化勁ではない。

型の動作の流れの基本となる掤捋擠按の「掤」である。

 

型は技の連続動作であるが、ひとつの技は4つの動作から構成される。

この4つの動作を端的に表したのが、掤捋擠按である。

 

「掤」=「力を抜き、相手を誘う」

「捋」=「攻撃を引き込み、かわす」

「擠」=「間合いを詰め、正中線をとる」

「按」=「打ち込み、衝撃を内部に送り込む」

 

つまり「力を抜き、相手を誘う」が「掤」となる。

私は、掤勁を少し、解釈広げて、「誘い」と捉えている。

 

掤勁とは、必ずしも相手と手で接する必要はない。

間合いをキープしながら、手をアンテナのように空間に差し出す。

これも「掤」の動作となる。空間を介して、相手とつながるのである。

 

間合いとは、お互いの静寂な制空圏バリアがはられている状態である。

このバリアを部分的に消し、わざとターゲットを出して誘いをかける。

 

太極拳の型では、最初の動作で、顔を相手に打たせるように誘う。

冒頭の写真のように、両手を上に開き、顔を差し出す、弓歩の姿勢だ。

太極拳の代表的な誘いのポーズである。

 

こちらのタイミングで、相手に打たせることができれば、有利となる。

相手のパンチを、当たる直前まで引き込み、ターゲットを一瞬に消す。

つまり、触れることはなくても、化勁は成立するのである。

 

太極拳の魅力は、

こういった達人への道が、伝統の動きとして受け継がれている点だろうか。

相手に、ターゲットの照準を合わさせる、これが武術の誘いである。