スポーツの世界ではよくゾーンに入ると言う。
それは、最高のパーフォマンスを発揮できる状態を意味する。
リラックスと緊張が同居した、集中力の高い、不思議な状態だ。
では、ゾーンに入ることと虛領頂勁は、どう関係しているのだろうか?
それでは、説明しよう。
武術家は敵に出くわした時、一瞬でこの状態に入れなければならない。
戦っている間にアドレナリンがでて、調子が徐々に上がってくるのではダメだ。
素手の喧嘩は一瞬で勝敗が決まる場合が多い。
リングでグローブを嵌めた戦いと、ストリートファイトではやはり異なる。
想像してほしい。
もし、あなたがナイフや金属バットを手にした暴漢に囲まれたとする。
武術家なら、一瞬にして臨戦状態のチャネルに変わる筈である。
つまり、ゾーンに入るのである。
武術家は無意識に、この術を身につけている。
では、その時の身体の状態はどうなっているのか?
伝統はふたつの姿勢を教えている。
1)氣沉丹田(きちんたんでん)
丹田に気が集まり、気のバリアとして気が丹田を中心に膨らんでいく。
これは、言うまでもないだろう。
2)虛領頂勁(きょれいちょうけい)
こちらは、説明が少々厄介である。 神気が頭頂を貫くことにより、周りにレーダーを張れるようになる。首が虚となり、頭が持ち上がっていく感覚だろうか。相手の動きが、空間のつながりとして、察知できるようになる。
一瞬にしてゾーンに入る場合は、敵に遭遇した時だけではない。
套路(型)を始める時も同じである。
最高の表演を行うためには、起勢の段階で、この状態に入らなければならない。