太極拳において擠(じー)とは一挙に相手との間合いを詰めることだ。
相手の正中線を取る動作で、歩法のワープが含まれている。
敵の拳や、顔が瞬時に目の前に現れるほど、怖いことはない。
それでは、説明しよう。
太極拳で、たまに、歩法の動きを誇張した型を見かけることがある。
まるで、足を振り出すタイミングや、方向を知らせようとしているみたいだ。
このような型をみるたび、太極拳の伝統はなくなりつつあると思ってしまう。
本来、歩法は相手に悟られてはいけないのが、武術である。
太極拳では、相手の正中線に押し入る動作を擠(じー)と表現する。
「擠」の言葉には、「押し込む」といった意味がある。
太極拳では、相手の姿勢を崩しながら、押し入るイメージだろうか。
しかし、私はもう少し広い意味で「擠」を解釈している。
擠(じー)は相手の体の一部に触れながら、押し入るだけではない。
相手に触れることなく、一挙に空間を詰める場合も同様である。
重心(丹田)が移動を始めてから、前足に体重の半分が移るまでが擠だ。
擠の動作で、大切な教えがふたつある。
丹田の内勁により重心移動が始まり、足が出る。
足が先に動いてはダメだ。
骨盤が回転しないで移動する、並進運動の時間が存在する。
(トップの写真を参照)
氷の上を滑るように、重心が水平移動する。
太極拳の型(套路)はゆっくりと動くので、並進運動の距離は小さい。
しかし、実戦で相手が後退すれば、この距離は伸びる。
このテレポーションの基本動作ができていないと実戦で通用しない。
この並進運動が、次にくる腰(骨盤)の立体的回転運動を強力にする。
これについては、次回の按(あん)で説明しよう。
太極拳の型(套路)は弓歩の繰り返しであり、掤捋擠按が基本となる。
今回は、弓歩の3番目の動作である「擠」を説明した。