太極拳は大衆化とともに、失われてしまった伝統がいくつかある。
弓歩で前進する場合、一旦、後ろ足に体重を戻し、
前足の踵を起点に回転している。 これは伝統だろうか?
では、説明しよう。
北派の中国武術では、順歩の追い突きが攻撃の基本となる。
弓歩、弓歩、弓歩の連続した前進である。
この場合は、前足に重心を残したまま、前進する。
回転の接地面は、足指と付け根の部分である。
体重を足に乗せながら回転させる場合は、踵は軸にならない。
太極拳の歩法は手と足が連動している。
ステップを進める場合、手の動きは、捋(りゅー)となる。
捋とは、掤捋擠按(ぽん・りゅー・じー・あん)の捋である。
捋の言葉の意味は、「撫で付ける」といった感じであろうか。
捋の手の動きに呼応して、前足の膝と股関節が外旋していく。
こと時に、足指が活きていることが重要。
(写真を参照)
この動きにより、踏み出すエネルギーを蓄積する。
これは、太極拳における、弓歩の歩法の基本である。
大衆化された太極拳では、踵で回転することが常識化しているようである。
そのためには、一旦、体重を後ろ足に戻さなければならない。
なぜ、こんなふうになってしまったのだろうか?
太極拳から武術の伝統が少しずつ消え去ろうとしている。
悲しいかな、これが今の大衆化された太極拳の現実だろう。
軸足を回転させる時、指先と付け根を使うのは、武術の常識と言える。