単鞭は鞭のように手を飛ばし、相手の顔面にピシャリと、掌打を浴びせる技である。
名前の由来は、左手を右手が、まるで、一本の長い鞭のようにコントロールすることから来ている。
陳氏太極拳の老架式には7回、簡易太極拳24式には2回、この技が登場する。
単鞭は間違いなく、太極拳を代表する技だ。
単鞭の基本用法
陳氏太極拳では、六封四閉と単鞭はセットで使用される技である。
現代では、太極拳は武術から徐々に乖離してきている。
形式だけが伝承されており、その用法は一般的には知られていないようである。
単鞭を掌打以外の全く別の技にすり替えて紹介されるケースをよくお見受けする。
紹介されている技はいずれも有効で素晴らしいが、果たしてそれで良いのだろうか?
単鞭は紛れもなく掌打であり、私の伝承経路では他は考えられない。
ここでは、やはり、陳氏太極拳の伝統的用法を紹介させていただきたい。
相手の左胸左肩に貼り付く六封四閉で一瞬だけ動きを封じる。 右手で相手の左腕を掻き上げながら、顔面に左掌を浴びせる。 六封四閉の至近距離からの打撃だが、たとえ相手が後退したとしても、左手は鞭のようにしなりながら相手の顔面を捉える。
単鞭の別用法
しかし、単鞭のユニークさはむしろ、先制攻撃に使われた時にある。
太極拳は中国の北派拳法であり、右構えを基本とする。それは、予備動作なしに右拳を飛ばし、体重を拳に乗せて打ち込む術を伝承しているからにほかならない。
しかし、右構えの相手が、右拳ではなく、いきなり左掌を出してきたらどうだろう。それも、右手の陰から、まるで鞭のように左手の指先が飛んでくるのだ。
さらには、後退して躱そうとしても、手が鞭のように伸びてくる。
ここに、この技の秘技がある。
型(套路)では右構えを取らないが、手を飛ばす動作は同じである。
知られたくない用法は型で見せない。武術とはそういうものである。
単鞭の歴史
単鞭は明の武将であった戚継光(せきけいこう)が、1560年に出版した紀效新書の中にでてくる。 18巻からなる大著であるが、14巻目の三十二勢拳に二つの単鞭が紹介されている。 図を参照されたし。 単鞭は太極拳を代表する技と言えるが、実は、太極拳が生まれる以前から存在していたのだ。
図はいずれも、左掌による打法を表している。しかし、下半身は異なり、一つ目は拗歩で、二つ目は順歩だ。太極拳は順歩の単鞭を継承しているようである。
単鞭は左掌で、高探馬は右掌による打法を基本とする。このことに不思議に思われた方はいないだろうか。これが、太極拳の戦い方である。太極拳は、決して左右対象の戦い方をしない。これについては、また別の機会に話してみたい。