太極拳に玉女穿梭 (ぎょくじょせんさ)という技がある。女性のようにしなやかに、左右の敵を誘い、バッサバッサと交互に倒していく。穿梭とは左右の行き来のことである。
太極拳は武術である。あったと言ったほうが正確だろうか。 一対一の試合形式ではなく、複数の敵との乱戦状況を想定している。
体力を温存させながら対処していくには、相手に打たせ、後の先をとりながら、ひとりひとり確実に射止めていくことである。
それでは玉女穿梭を説明しよう。
左右どちらの敵からでもよいのだが、背骨を歪ませながら斜めに相手に寄り添っていく。そして、先端の指先をスーッと下げて、相手を誘う。
相手に打ち込ませたら、こちらは消えることである。相手が打ち込んだ線上に、当方の顔面は存在しない。 そして、掌でもって顔面を殴打し、相手に脳震盪を起こさせる。
一撃で沈まなければ連打となるが、型では行わない。
これを左右の敵に繰り返す。
陳氏太極拳の老架一路の型を習われた方は疑問に思われるのでないだろうか。
「これは、私が習った玉女穿梭とは違う」と。私も陳氏太極拳の門派出身なので不思議だ。
楊氏太極拳に伝承されているのに、なぜ、本家の技が異なるのか?
これは私の仮説なのだが、従来、玉女穿梭は倒騎龍という技と連続で練習されていた。この連続技が変形して出来たのが、老架一路の玉女穿梭ではなかろうか。 武術家で歴史に興味のある方は、調査していただきたいものである。