含胸抜背(がんきょうばっぱい)

太極拳 含胸抜背 含胸拔背
Taijiquan Sink the chest, raise the back

「含胸抜背」は太極拳をやっている人なら誰でもよく聞く言葉だ。

武術として、大切な教えなので、私なりに説明してみたい。

 

人は進化の過程を遡れば、もともと四つ足の動物。

手を前に出して構えれば、肩の位置が前方にずれるのが自然。

しかし、背骨と首筋はまっすぐでなければならない。

この姿勢を「含胸」と呼ぶ。決して、猫背ではない。

 

武術に置いて、胸郭を開いた胸を張る姿勢は存在しえない。

胸を張れば、重心が上にあがり、安定しない。

「含胸」は、胸郭は閉じた状態が保たれ、気が丹田に落ちる。

 

しかし、ここでより重要な概念が「抜背」である。

戦闘のいかなる状態においても背が抜けていないといけないのである。

背が抜けるとは、背骨が滑らかに摩擦なく回転する状態である。

 

「抜背」ができなければ、術を学ぶことはできない。

 

「抜背」ができる生徒は、肩を軽く触れながら教授することができる。

しかし、これは、今風の丁寧な教授方法かもしれない。

 

昔であれば、師匠から、技は見て取れと言われたものだ。

見ただけで技が取得できるのなら天才か、既に同レベルに達している。

もし許されるなら、黒子のように師匠の背に両手で張り付くのが良い。

勁力の伝わり方、タイミングの取り方は背に現れるからである。

しかし、師匠の背に触れることなど、内弟子でも普通は許されない。

 

一番怖いのが、戦闘中に恐怖や劣勢で背中が固まることである。

武術において背が固まることは、「居着く」ことと同じである。

真剣の立会いであれば、それは死に直結する。

強敵と対峙すれば、意を前に出しより背中を抜かなければならない。

 

「含胸」と「抜背」は表裏一体の姿勢である。

「含胸抜背」は戦闘のいかなる状況においても、保ち続ける姿勢だ。