人間のパワーの源は足腰である。これに異論を唱える人はいないであろう。
足と腰は二つの関節でつながっている。
この股関節の動きを制したもののみに、達人への道が開かれている。
武術における丹田の重心移動は、中丹田(胸骨)を支点にして、両膝で操作する。
両膝をやわらかく使い、下丹田を急発進させたり、急停止させている。
特に丹田(下丹田)を急加速させるときは、前膝の推進力が非常に重要となる。
今回のテーマは、技が決まった瞬間の決めポーズ(定式)の要点を説明したい。
決めポーズは、全身がつながった状態だが、肩関節と股関節で力の伝達にロスが生じやすい。
肩関節でのロスは、肩を落とせと初学の時から習うので、今日、ひどいものは見られなくなっている。しかし、股関節の動きに関しては、ほとんど教えられることはなく、放置させているのが実情ではないだろうか。
丹田の動きは内勁といって3次元の動きをしている。
しかし、誤解されることを恐れず、力学モデルとして単純化してみる。
丹田操作は、股関節を揺動支点にして、両膝の動きでコントロールしていると解釈できる。
戦艦大和の主砲を放つ時、作用反作用の力で海面を基準にして、船体は後退する。
では人体の場合、この作用反作用を、どう全身で受け止めているのだろうか?
具体的には、勁を相手の体内に浸透させる時、勁を相手の体内で爆発させる時。
このような時に、足と腰をつなぐ股関節は、どうあるべきなのか?
太極拳は、このことについて、ひとつの回答を提示している。
それは、圓襠(アーチ)、股下のアーチである。
「圓襠(アーチ)は知っている。でも、馬歩(騎馬立ち)の場合だよね」という人がいる。
しかし、圓襠(アーチ)は弓歩に使ってこそ、真価を発揮する。
弓歩の圓襠(アーチ)を正しく理解してもらうために、まず間違った例から説明しよう。
前膝が90度にガクッと折れ張りがない。後ろ膝は、幅広のスタンスで、棒のようにツンとしている。または、短いスタンスでバランスをとるため、膝が曲がり落ちている。
この状態では、股下に股関節のアーチが作られることはない。
良い弓歩の圓襠(アーチ)とは、両方の股関節が外旋により開いており、仙骨が中に入って両股関節がアーチ状に固定されている。
前膝は纏絲勁(てんしけい)により、弓のように弾力をもちながら曲がっており、後ろ膝は纏絲勁(てんしけい)により、矢のように弾力を持ちながらまっすぐ伸びている。
このように股関節は、腰の力を足に、足の力を腰に伝える重要な中継ポイントである。
作用反作用において、力の流れは双方向である。例えば、爆炸勁(ばくさくけい)の瞬間、簡単に言えば息を吐いて拳を握る瞬間(指を伸ばす瞬間でもよい)に、股関節の位置と角度はどうあるべきか。
このことを正確に教えられる太極拳の先生は少ないように思える。
競技用の見せる太極拳の弓歩姿勢を見る限り、こういった伝統はもはや受け継がれていない気がしている。
冒頭で述べたが、人間のパワーの源は足腰である。勁力を追求するのであれば、股関節の動きを正しく会得しなければならない。なぜなら、力の伝達ロスはここで生まれている。