内勁

太極拳の内勁とは

「内勁」を説明するには、まず「勁力」を理解してもらう必要がある。

勁力とは

鯉などを手掴みした時、魚はピチピチと全身の力で暴れる。

このことは多くの方が経験されているのではないだろうか?

脊椎動物にとって最も大きなパワーを発揮できるのは胴体だ。

このパワーを、手足で伝達ロスさせことなく、相手の体内の破壊点まで伝える。

この全身全霊で発した力の作用を、武術では「勁力」と言う。

 

 

「勁力」は、ゴルフスイングを例にして説明するとわかりやすい。

テイクバックが「蓄勁」動作であり、ダウンスイングが「発勁」動作となる。

ダウンスイングの揺動支点は、肩、肘、グリップ、シャフト、ヘッドの順で加速していく。

この力の伝達は、胴体の軸の力が外に現れた結果である。

腕の筋肉を鍛えたところで、ボールの飛距離が伸びるわけではない。

 

 

武術はゴルフのスイングのように、テイクバックの時間を与えてはもらえない。

そのために、常に「半身」の姿勢を取る。

内勁とは

古来、武術は武器を使うことを基本とした。

刀は鉄の塊であり重い、長槍も重く腕力のみで扱える代物ではない。

刀術、槍術を会得するには、腰の動きで切る、腰の動きで突く法を学ばなければならない。

武術では腰の動きにより、胴体の軸の力を生み出しており、これを「内勁」と言う。

 

 

太極拳は、素手で戦う時も全て「内勁」を使った動きを基本とする。

日常生活において、手は軽く「内勁」を使わなくても器用に動かせる。

しかし、太極拳は指先を動かすのも丹田とつながった力で操作する。

太極拳の場合、このつながった力が纏絲勁(てんしけい)となる。

 

 

「内勁」の動力源はどこにあるかというと、それは丹田だ。

丹田の「意」によって「内勁」を回すといった表現をする。

腰が引けた屁っ放り腰では、「内勁」は回らない。

武術は半身の姿勢で、つねに丹田のエンジンが回っており、回転数をあげられる状態でなければならない。

バイクに例えると、エンジンを吹かし、クラッチをゆっくり放すと、車体は一挙に飛び出す。

 

 

「内勁」を回す動作は、太極の陰陽マークに似ているかも知れない。

相手に悟られることなく融和する前半と、相手を破壊する後半で構成される。

後半の動きだけ、力学的に説明してみよう。

 

 

「内勁」とは力学的には股関節操作と仙腸関節操作と言えるかも知れない。

股関節により骨盤を動かし、仙腸関節により仙骨を立体的に動かしている。

仙腸関節は上半身と下半身をつなぐ、人体で最も強靭な関節だ。

骨盤が土台となる動きが、両足が大地に食い込むアーチの構造を生み出す。

仙骨を前方に押し込む動きが、上半身に支柱を立てる。

 

 

達人クラスになると、「内勁」動きが小さく強力で外からは見えない場合がある。

内なる力として「内勁」と呼ばれているように思う。

 

 

太極拳は「纏絲勁」と「弓歩」の地道な練習から、「内勁」を獲得していく。

「内勁」を会得することは決して容易ではない。

しかし、「勁なくして武術にあらず」と付け加えておこう。